輸入住宅ブーム
1990年代後半頃、メディアの影響なのか輸入住宅を建てたいという要望が急激に増え、各ビルダーはこぞって輸入建材を取り扱う商社を探し始めた。
輸入住宅を建てるためには、当然輸入建材が必要なわけで、輸入建材を在庫している商社なんてほとんど無かったので、海の向こうに注文して届くのが2ヶ月後なんてのが当たり前だった。
ほとんどの商社は注文時に全額もしくは半額の前払いを要求し、資金力の乏しいビルダーはなけなしの資金をかき集めて支払い、なんとか顧客の要望に応えようとした。
首を長くして待ち続けた2ヶ月、やっと届いた輸入建材。
梱包を開けて愕然とする。
ドアのステンドガラスは割れ、外装材のコラム柱は折れ、洗面台のボウルはヒビが入っている始末。
慌てて商社にクレームを入れ交換を要求するも、良品が再び届くのは2ヶ月後。
施主に頭を下げて、良品が届いたら交換するという条件で、破損品を取り付けさせてもらって工事を進める。
しかし、外装材のコラム柱はあとから交換することなどできず、その周辺の工事はコラムが届くまで待つしかなく、結局引き渡しは3ヶ月以上遅れ、その間の賃貸住まいの家賃などはビルダーが負担することに。
その負担を商社に求めたところで、良品交換以外は負担しないとかたくなに拒否され、すべてビルダーの持ち出し。
結局、初めて取り組んだ輸入住宅は大赤字となってしまった。
こんなビルダーが当時山ほどあったことだろう。
ところで何をもって輸入住宅と呼ぶのだろう?
輸入住宅産業協会ではこう言っている。
厳密な定義付けはしていないが、一般的に「海外の設計思想による住宅を、資材別またはパッケージで輸入し、国内に建築する住宅」。
一般社団法人 輸入住宅産業協会 より引用
と言うことは、単に建材を輸入して取り付けたからと言って、胸を張って輸入住宅でございます〜とは言えないと言うことだ。
ちゃんとした『海外の設計思想』が無いとダメらしい。
ん〜、じゃあ海外の設計思想って何だろう。
なんか抽象論のようで、結局しっかりと線引きはできないわけで、つまりは海外にある住宅の意向を汲んだデザインであったり空間が備わっていれば、それが「輸入住宅」だと言って良いのだろう。
だから、実際海外で使用されている建材メーカーが販売している材料を使って家を建てれば、デザインが海外の住宅そのものに極めて近くなるので、立派な輸入住宅になる。
輸入住宅のメリットは?
- かなり目立つ
- 知り合いに自慢できる
- 子どもの同級生に「お城」「豪邸」と呼ばれる
- 金持ちと羨まれる(デメリットとも言えるが…)
寂れた住宅街に、パステルカラーの建物がポツンと一棟。これは目立つ。
白い装飾材を多用しているので、子どもたちの目から見ると「お城」に見えるようだ。
新築当初は、知り合いがこぞって遊びに来てくれた。
全然お金持ちじゃないのにお金持ちと呼ばれた。
これは、実際輸入住宅を建てて住んでいる方から聞いた話だ。
ではデメリットは?
- とにかく高い
- 時間がかかる
- 品質にやや疑問が
- 狭い日本住宅にはあわない
輸入品を多用するので、輸入のための流通コストに加え、為替の影響で価格差が頻繁に起こる。
円安の時期は、思った以上に高額になってしまうことも。
建材を在庫している商社なら良いが、ひとつひとつを現地調達していたら、下手すると完成までに1年を超えてしまうこともある。
輸入建材を国内にストックしている商社と取引しているビルダーかどうか、必ずチェックしてから建築を依頼した方が間違いない。
デザインは豊富で奇抜なものも多くあるのだが、素材はごく一般的なものあるいはそれ以下なものが多く、期待はしない方が良い。
外装材は言葉のごとく飾り物がほとんどで、「ルーバー」と言っても通気はできず、「シャッター」と言っても開閉しないものが多い。
北米の住宅は延べ床面積が300㎡を超えるところが多いので、キッチンやバス、サニタリーは広い空間に設置することを前提にデザインされている。
海外のTVドラマや映画を見ていると、広々したキッチンでのシーンが頻繁に出てくるが、邦画でキッチンが写るシーンは少ない。
海外のキッチンは「見せるキッチン」だが、日本のキッチンは「見せたくないキッチン」というのが現実だ。
日本の狭い住宅では仕方がないわけだ。
文化の違いで片付けてはいけない
どんな住宅にもメリットやデメリットは存在するわけで、それが輸入住宅だから顕著だと言うことはない。
日本人はことある毎に「文化の違い」を言うが、人が家に住むと言う基本的なことに違いはなく、そこには文化もへったくれもない。
家に求める趣向に違いがあることは認めるが、住まいは住まい。
誰しも一家が団らんに暮らせることを求めているはず。
輸入住宅がもつデメリットも、ポジティブにとらえればすべてが「個性」。
大手住宅メーカーではほとんど扱っていない、個性溢れる「輸入住宅」を検討してみるのもおもしろいだろう。