わたしが住宅メーカーを辞める1年ほど前の話。
営業部にチラシをご覧になった方からの反響電話が入ってきました。
私の上司が電話を受けました。
あ~もしもし?
お宅のチラシを見て電話しているんだけど、お宅の建物は他のメーカーに較べてずいぶん安いけど、なんかカラクリでもあるのかい?
お電話ありがとうございます。
我が社は他のメーカーと違って材料や人材を外注せずに中間マージンを省いて、少しでも安く家を建てることが出来るように工夫しておりますので、そういった関係でお安くなっております。
うんうん、良く聞く話だな。
で、おたくの展示場は何時までやっているんだ?
お越しになる時間をお知らせいただければ、展示場を開けてお待ちしております。
あまり遅くなると悪いので、自宅に来てもらうことはできるかな?
もちろんお伺いさせていただきます。
それではご住所お名前電話番号を…
住所は○○市○町1234-5、名前は□□、電話は×××-×××。
実は近所に良い土地が売りに出ていて、たった今不動産屋と土地の契約をしたので、自宅に来る前にその土地を見てきてくれないかな?
その上でいろいろ提案してくれると良いな。買った土地の住所は○○市△△町・・・
ハイ!わかりました。
それでは後日お伺いいたします。
ありがとうございました。
と、こんな会話がわたしのすぐ横の席で交わされていました。
そして電話を切った後にすかさず上司がわたしに言ってきました。
「この客、結構簡単に決まりそうだな。お前一緒に同行しないか?」
あまり気は進まなかったのですが、上司と同行したことがほとんどなかったので、良い機会と思い同行させていただくことにしたのです。
そして訪問日のこと
あらかじめ聞いていた、既に契約されたとされる土地を見に行ったところ、土地の形状も平坦で間口も広く、前面道路も6m以上はあり、まったく言うことはありません。
わざわざ見に来なくても、土地の形状がわかる図面があれば十分なくらい形の良い土地でした。
「こんなきれいな形をした土地なら、良い提案ができそうだな」
と、上司。
わたしも同感とうなずくも、何かが気になりました…。
どこからかともなく聞こえるジリジリと焼けるような音。
「何だ?この音は」
わたしは、音が鳴る上の方を見上げました。
そこには高圧の送電線が、その土地の真上を通っていました。
この日は小雨まじりで湿度の高い日だったためか、電線からジリジリと音がしています。
わたしは上司に言いました。
「高圧線が真上を通っているから、現地を見に行ってほしいと我々に依頼したんですね。これは何らかの対策を講じた提案をしないといけませんね。そこを考慮をした家を提案しないと病気になっちゃうかも知れませんよ」
すると上司は
「高圧線が上を通っていることを承知で買ったんだろうし、たぶんその関係で結構安い価格で購入できたんじゃないか?そこまで我々が首をつっこむ必要はないだろう。何かあれば土地を売った不動産屋が対応すれば良いんだよ。我々は家を売る立場なんだから。」
お宅に到着、そして
早速おじゃまさせていただき、いろいろお話をしたのです。
一通り当社の理念や施工例などを見せ、だいぶその方もその気になってきたように見えました。
最後に上司が土地に合ったプラン制作の提案を快諾いただき、土地の測量図を預かってお宅を後にしました。
その後、営業の見解をデザイン部門に伝え、測量図を渡してプラン制作を託しました。
やがてプランが出来上がってきました。
それにしても、デザイン部門で作るプランは、何度見ても美しく、つい見入ってしまいます。
しかし出来上がったプランには、高圧電線に対する提案はされていなかったため、わたしは上司に言いました。
「高圧の送電線は強い電磁波を出しているのだから、それに対する素材を積極的に導入するプランを盛り込まないと、土地にぴったり合ったプランとは言えないんじゃないですか?」
すると上司は
「だから、そういったことを承知であの土地を購入したんだから、我々がとやかく口を挟まなくたって良いんだよ。逆にそんな提案したら家の価格が高くなっちゃって契約してもらえなくなるだろ?」
この上司の見解が正しい解釈でないということは、誰にでもわかると思います。
しかし、意見をしても聞く耳を持ち合わせておらず、結局わたしを同行させずに一人でお客様のご自宅にプランを持って伺ったのです。
数日後、上司が血相を変えて、
「おい!おまえこの間、高圧電線やら電磁波やら素材の提案がどうのこうのって言ってたな?あれ、今すぐ提案書として作ってくれないか?」
どうやら、先日訪問した方にプランを気に入ってもらうことができなかったようです。
当然と言えば当然ですが、その時わたしは他のお客様の対応に追われていたので時間が取れず、上司の提案書作成に協力できなかったので、その上司は他の営業員を引きずって、高圧電線や電磁波に対する提案を出させていました。
ジタバタと足掻いたようですが、結局その方は当社ではなく、△△△ホームで家を建てることにしたようです。
その後の出来事
後日、その家の基礎を着工したところを見計らって、わたしひとりでその方のところに伺いました。
そして、なぜ当社にしていただけなかったのか、それと、△△△ホームに決めた理由を伺いました。
返ってきた回答はこのような内容でした。
土地を検討していた時、送電線が真上を通っていることを気にされたご主人が、その土地を販売した不動産会社に心配の胸の内を話したら、
「高圧線が真上を通っていることで土地を安く購入できるので、その分建物にお金をかけても良いのではないでしょうか?そして、高圧線に対する説得力のある提案をしてきた住宅メーカーで家を建てれば良いのですよ。」
と言ったそうです。
こういった環境の土地を見て、この環境にあった提案が出来ないようなメーカーで家を建てるようなことは絶対しないように!、と念を押されたそうです。
△△△ホームさんは、とにかく高圧線から放出される電磁波を吸着するために「炭」をあらゆる所に盛り込んだ提案をしてきたそうです。
床下に敷く炭だけでなく、敷地そのものにも炭を効果的に埋設する「イヤシロチ」を考慮した提案、もちろん室内の四隅に炭を配置できるようにあらかじめ棚を作ったりして、土地や建物全体で電磁波を効果的に吸収するような提案をしたそうです。
その方ははじめから我々が出す提案を試すつもりだったわけです。
そこそこ名の知れた住宅メーカーが、どこまで高圧電線下の住まい対策を理解しているかも。
そんなことは当然です。
だってこれからそのお客様は高圧電線の下に何十年も住むのですから。
住まいの立地を考慮した提案をするというのは、その土地のカタチや日当たりだけでなく、騒音や環境、汚染されている何かなどすべてをあらゆる角度から理解しなければダメなのです。
そう言う住宅メーカーだけが、お客様のためのメーカーだと言えるのです。
ちなみに数ヶ月後この上司は、責任を取ってか取らずか会社を辞めました・・・。